2020/10/26  カテゴリ 

よんでみた!

「バグトリデザイン」を読んでみた〜本当の問題(バグ)は顧客体験の中にある〜

今回、ご紹介するのは村田智明氏の著書「バグトリデザイン」です。著者である村田氏は、株式会社ハーズ実験研究所を立ち上げて、オムロンの血圧計「スポットアーム」やマイクロソフト「Xbox 360」といった世界的なヒット商品のデザインに携わり、国内外の160以上の賞を受賞しています。”バクトリ”なんて聞き慣れない言葉に一瞬、「難しいのかな?」と警戒しましたが、そんなことはなく、やわらかいテイストのイラストとともに、事例を交えながらわかりやすく解説してくれています。この記事では、本書の一部を紹介しつつ、「行為のデザイン」や「バグを見つける方法」について解説します!

行為のデザインとは?

著者がこの本で書いている「行為のデザイン」は、著者のバックボーンでもある工学とデザインの知見や実践を下地に完成された理論で、人が行動のために選択する行為そのものに着目しています。そしてその対象は一般的なペルソナだけでなく、マイノリティとされる目の見えない子供を持つ母親、肌が敏感な人などにも及びます。

大量生産の時代は、「最大多数の最大幸福」の考えのもとに、大多数に合わせた商品開発をすれば問題ありませんでしたが、現在はニーズも多様化し、個々に焦点を当てていく必要があります。

行為のデザインを考えるときには、無意識の行為、いわゆる常識や前提を疑うことが大切と、本書では語られています。つまり、日常の中で普段見すごしている不具合、いわゆる「バグ」はないか? そして、そのバグをなくす解決策はないか?

たとえば、SUICAやPASMOをチャージしていなくて、改札で引っかかってしまい、乗るはずだった電車を乗り過ごしてしまった……。こんな経験、皆さんもあるかと思います。まさに、この「チャージしているか分からない状態にある」というのがバグなのです。SUICAやPASMOの残額が100円以下になったら、赤色のゲージで表示されるなど、通知機能があれば、改札を通過する前に気づくことができますよね。

このように、日頃から人または自分の行動一つひとつを着目していき、行動のスタートからゴールまでの動線をよりスムーズにするにはどうしたらいいのかを考えることが、まさに、行為のデザインに重要な視点となります。

世の中にあるバグは全部で6種類

この本では、バグを大きく「非効率のバグ」「迷いのバグ」「矛盾のバグ」「負環のバグ」「心理のバグ」「誤認のバグ」と紹介していました。私は、ADHD(発達障害)の傾向があり、こういったバグによく遭遇するので、とても共感できるものばかりでした。より理解が深まるよう、自分が実際に体験したものを実例として紹介します。
世の中にある6つのバグとは?

世の中にある6つのバグとは?

バグを引き起こす6つの要因

また、本書ではバグを引き起こす要因についても解説していました。かいつまんで紹介します。

プロセス因子
プロセスが適切でないために、スムーズな行動を妨げている因子。スーパーでは、入口付近に、惣菜や生鮮食品や野菜売り場があり、中程にお肉売り場、そしてレジ付近にお酒やペットボトル売り場と配置されているケースが一般的です。ただし、順番に商品をかごに入れると、ペットボトルや牛乳を購入した時に、野菜やお肉がつぶれないよう、カゴの配置を組み替えないといけなくなります。

属性因子
個人の性格、性別、人種、年齢、立場の違いなどによる因子。足が長い人が座ると、カウンターの下に足がぶつかってしまい座りにくい、ビジネスホテルの部屋で仕事をしたいけれど、電源の位置が遠く、パソコンが充電できないなど、立場にとって受け取り方が変わります。幅広いユーザーの視点で、サービス・商品の設計をする必要があります。

惰性因子
マナー、クセ、無意識の行動、スキル、共感反応、拒絶反応など、後天的な経験によって慣習化された行為による因子。デスクワークによる悪い姿勢の強化や、トイレの個室に入るとき、後ろポケットに入れている財布をトイレットペーパー台の上に置き忘れてしまうなどは、まさに無意識のクセによるものです。

記憶因子
記憶のしにくさによる因子。Webサービス登録時に作成するアカウントIDとパスワードを忘れてしまう、駅で預けたロッカーの番号を忘れてしまうなど、迷いのバグが起こる主な原因となります。

環境因子
時間、環境の変化による因子。引っ越したことで、使いにくくなった家具・家電、アップデートしたことで開けなくなった文書ファイルなど、時間の経過や環境の変化によって、バグが発生することがあります。

不適正因子
適正ではないプラン、デザイン、設計、役割などによる因子。断熱カップによって熱さを感じないため、勢いよく唇をつけて火傷する、雨などで手が濡れていると、スマホを正しく操作できなくなるなど、利便性を向上させようと設計したものが裏目に出てしまうケースです。

これら6つの要因とバグを、自社のサービスや商品に置き替えて考えることで、本当の課題を発見することができます。

ソリューションを考える上で大切な3つのポイント

バグと要因から、自社の課題を導き出し、ソリューションを構築していきます。このソリューションを構築していく時に大切なのが以下の3つのポイントです。

アフォーダンスを活用する
アフォーダンスとは、「無意識にでも、次の行動へ誘発してくれるデザインまたは仕組み」のこと。行動のスタートとゴールをスムーズにさせるための仕掛けをどう作るか、たとえば、駅や改札・出口の案内を壁に掲示するのではなく、無意識に見る足元に電車の路線図と同じ色のマーカーを引く、またはサインを書くだけでスムーズに行動を促すことができます。

余分な情報を削ぎ落とす
商品のコンセプトやデザインは、人に多くの情報を伝えます。要素が多いほど、要素同士でバグを生み出す原因にもなりますし、またセールスポイントもあいまいになり、結果的に他の商品に競り負けてしまいます。余分な情報は全て削ぎ落とし、伝えたいポイントだけ残すことで、一貫したメッセージ、印象を発信できます。

体験価値を提供する
ソリューションを商品に落とし込むだけでは、スペックとしての価値にとどまります。ユーザーの価値基準にインパクトを与えるようなストーリーを商品に盛り込むことで、ソリューションが「体験価値」に転換され、爆発的なヒット商品としての価値を生み出します。たとえば、飲食店であれば、SNS用の写真を撮りたい人のための「映え席」や、贅沢な時間を過ごしたい人のための装飾などにこだわった「おもてなし個室席」など、ほんの少しの非日常を味わえる設計でも、十分、体験価値になりえます。

まとめ:顧客体験をして、本当の”バグ”を見つけよう

私は、ADHDの傾向があり、あいまいなことを読み解くことが苦手で、意味を取り違えることがしばしばあります。そのため、よくふつうの人がしないような致命的なミスをしてしまうことがあります。しかし、この本を読んで、このADHDならではの欠点は、バグを発見しやすい長所ということに気づくことができました。
あらゆる目線を入れて見てみるのが大事

あらゆる目線を入れて見てみるのが大事

飲食店、地方の観光地から高級ホテルまで、いろいろな場所へ赴いてサービスを受けてみたときに、どのような不具合を感じるか? また、自分目線だけでなく、男性、女性、子供、高齢者、車椅子に乗る人、感覚過敏な人など、あらゆる目線を入れて感じること。どれだけ多くの人の気持に寄りそえるか、ということが、結局、適切な「行為のデザイン」を生むカギになりそうです。
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『バグトリデザイン 事例で学ぶ「行為のデザイン」思考』
著者: 村田 智明
出版:朝日新聞出版
発行:2020年2月
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