2021/01/24  カテゴリ 

よんでみた!

プレイフル・スピリットをスパークさせよう!働く人と場を楽しくする思考法『プレイフル・シンキング(決定版)』を読んでみた

ワークショップはここ10年で社会に浸透してきました。今回は、ワークショップ研究の第一人者である上田信行先生が前著からの10年間の研究内容を加筆した働く人と場を楽しくする思考法『プレイフル・シンギング(決定版)』を読んでみました。

こんにちは。みんデザライターの相川千晶です。今回は、働く人と場を楽しくする思考法『プレイフル・シンキング(決定版)』を読んでみました。

交流イベントや企業セミナーなどさまざまな場所で開催されているワークショップ。みなさんも一度は体験したことがあるのではないでしょうか? デザイン思考を学ぶ手段としても、ワークショップはよく取り入れられています。今でこそ、ワークショップは一般的ですが、著者・上田信行先生は、1990年代から、参加者が協同的に活動することで問題や課題を解決する方法として、ワークショップを活用してこられた第一人者です。

同志社女子大学・現代こども学科の名誉教授である上田先生は、「学習環境デザイン」という分野で、「どんな場があれば、人は夢中になって学ぶのだろうか」をテーマに研究をされています。ユニークなワークショップの実践や学習環境についての研究をふまえて執筆した前著『プレイフル・シンキング』から10年が経ち、最新の研究や企業との建築プロジェクトなどの活動を経て、加筆改訂をした決定版が本書です。

10年前と比べ、人々の働き方や働く環境は随分変わりました。ワークショップが一般的になり、「仕事を楽しむ」という考え方も少しずつ受け入れられるようになってきた一方で、見えてきた課題もあるといいます。

“ワークショップの参加者は、その場では自分を開放し、他者との協調による新たな発見や創造に胸を踊らせるものの、通常業務に戻ると、また元の働き方に戻ってしまうのだ。単純に「楽しい」という感覚を味わうだけでは、日々の仕事をプレイフルに変えることはできない。そのことを痛感させられたのである”

私もとても深くうなずいてしまいました。仕事や研修で体験したワークショップを思い出すと、その最中は頭が柔らかくなり、チームメンバーはみんなとてもいい人で、共創が生まれます。しかし、その後通常業務に戻ると、特別なお祭りの後のように、その時に生まれた企画や意見がなくなってしまう、と感じた経験があります。

では、どうすればワークショップのときのようなドキドキワクワクが持続し、プレイフルに働くことができるのか?

本著では、上田先生の専門である教育工学や認知心理学をもとに、人をプレイフルにする環境の作り方、場の可能性などについて言及されています。詳細については本著を読んでいただくとして、今回は、プレイフル・シンキングの概念、そして個人的にとても興味深かった、心のあり方とモチベーションとの関連についてご紹介します。
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誰もがプレイフルになれる思考法

上田先生は、プレイフルとは、「本気で物事に取り組んでいるときのワクワクドキドキする心の状態」「どんな状況であっても、自分とその場にいるヒトやモノやコトを最大限に活かして、新しい価値(意味)を創り出そうとする姿勢」と定義しています。

上司から新しい仕事を打診されたときに、「Can I do?(私にできるだろうか?)」と「How can I do?(どうやってできるだろうか?)」のどちらで考えるかで、あなたが「仕事を楽しむ姿勢」をどのくらい持っているかがわかります。
「Can I do?」と考える人は、まず「自分ができるかどうか」を考えてしまう人。一方で「How can I do?」で考える人は、自分ができるかどうかよりも「どうやったらできるか」を考えられる人。「How can I do?」と考える人は、新しい仕事に対して、「こうやれば実現できるかも」「あの人の助けを借りればうまくいくかも」とワクワクしながら戦略を練ることができます。その時の気持ちは、まさにプレイフルな状態で、その状態を生み出すための思考法がプレイフル・シンギングです。

プレイフル・シンギングは認知心理学をベースに構築されていて、元々の性格が後ろ向きで臆病な人や「Can I do?」タイプの人でも、自分や世の中の見方を変えてみる、というコツをつかめば、誰でもプレイフルに振る舞えるようになると言います。

上田先生は、プレイフルは、環境との相互作用で起こるといっています。状況に応じてプレイフル・シンギングを活用する、たとえば、働く環境などの「場」をプレイフルにすることが、プレイフルに振る舞うためには大事なのです。

私たちはいつプレイフルじゃなくなるのか

感情や行動にはその人の「心のあり方」、認知心理学でいう「マインドセット」が影響しています。認知心理学者のキャロル・ドゥエックは、自分の考え方を変えない硬直した心のあり方を「フィックストマインドセット(fixed-maindset)」、自分は変わって、どんどん成長したいと思うしなやかな心のあり方を「グロウスマインドセット(growth-maindset)」と呼んでいます。

上田先生は、このマインドセットの違いは生まれつきのものではなく、生まれたときは、誰もがグロウスマインドセットを持ち、プレイフルな存在だったのではないかといいます。なのに、大人になるにつれ、未知なものをリスクと感じる脳の働きが生まれ、ドキドキすることを避けるようになります。

上田先生は、どの段階で人はプレイフルでなくなるかを調査しました。小学4年生から高校3年生まで701人を対象に、「勉強すればするほど、頭の良さは変わるとおもいますか?」という質問をしました。その結果、中学1年生くらいから、勉強していても頭の良さそのものはかわらないと答える人が増えており、自分の能力の限界を感じる人が増えている、としています。
読んだ人がみな興奮「自分だけのものの見方や答えの出し方」が見つかる『13歳からのアート思考』でも、13歳になり、小学校の図工から中学校の美術の授業に変わった途端、美術が嫌いになるという結果がありました。小学生から中学生になると、将来の受験を見据え、成績が重視されるようになります。これまでは気にならなかった他者との比較に心が奪われるようになり、自分の能力の限界を漠然と感じ、学びへの欲求や期待感を萎縮させていくのかもしれません。
では、フィックストマインドセット(fixed-maindset)を身につけてしまった人たちは、どのようにすればプレイフルに振る舞うことができるのでしょうか?

物事を固定的に捉えがちなあなたの思考を自由に解き放つメタ認知

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上田先生は、大人になり、物事を固定的に捉えがちな思考を自由に解き放つ鍵となるのは、「メタ認知能力」であるといいます。メタとは、「高次の」という意味があり、メタ認知とは状況を俯瞰的に把握し、その気づきや言語化を通して自分の可能性を拡張していくことです。一人の自分が宙に浮き、上から下にいる自分を眺めている、映画や漫画などに出てくる、幽体離脱のようなイメージです。

人はなにかに深く入り込んでいると、とたんに周りが見えなくなります。不安や腹立たしさやマイナスの感情に支配されているとき、冷静に考えられなくなります。しかし、メタ認知をしてみると、全体像が見え、自分を取り巻く状況を冷静に把握し、状況に応じて振る舞いを変えていけるようになります。まずは自分自身がどのようなマインドセットを持っているのかに気づくこと。そのことに気づくことができたら、「グロウスマインドセット(growth-maindset)」に変わっていくことができます。

おもしろくない仕事は4つのPでプレイフルになる

プレイフル働くためには、4つのPという概念が大切だといいます。

「projects」
与えられた課題を、自分の課題として再設定する
「passion」
課題が自分ごとになり、見通しが見えてくれば「やりたい!」という情熱が湧いてくる
「peers」
共感してくれる仲間が集まってくると、一人ではできないことも誰かと一緒ならできるかもしれないという協同的自信が生まれ、課題への挑戦に一歩踏み出せる
「play」
冒険心をもって新しいことに挑戦する。自分の限界を試し、リスクを取りながら何回もやりなおす

ポイントは、いまやっている課題を上司や他人から言われたとおりにこなすのではなく、自分ならどうするかという視点で課題を捉えなおすことです。嫌な仕事でも無理やり好きになるとか、つらい仕事に精神力で立ち向かうということではなく、自分が納得できる意味をその仕事に与えることで、自分と仕事の関係性をポジティブに変えていくことです。仕事に自分なりに発見や創意工夫が加われば、「これは私の仕事ではない」から「これは私の仕事だ」に変わっていきます。

物事を多角的に捉えるメタ認知と、課題を自分ごとと捉え、物事に積極的にかかわろうとする姿勢の両方をバランス良くもつこと、それがプレイフル・シンキングに近づくための1歩です。

やる気がないのは本人の問題なのか

上田先生は、プレイフルに働くために不可欠なモチベーションについても触れています。これまでは、モチベーションというと、あの人はやる気がない、などと人に備わった資質のように考えられてきました。

前出の認知心理学者キャロル・ドゥエックは、モチベーションを「課題の意味づけと状況を自分でコントロールできそうだという見通し」であると捉え、「課題の意味を見いだして達成するまでの見通しが立ち、その先に課題を達成できる自分をイメージできたときにモチベーションは高まる」と考えています。

やる気が無いのはその人が持っているパーソナリティや本人の問題なのではなく、仕事や課題の状況を自分でコントロールできそうかどうかなのです。「言われた通りのことをやれ」あるいは「失敗は許さない」というようなタイプの上司だと、ミスや失敗をしないということに気を取られ、安全策をとり、挑戦する意欲がなくなっていくのです。そんな状況では、本人に無理やりやる気を起こそうとしてもモチベーションはあがらないでしょう。

やる気が無いのは、その人のせいじゃない、私にとってこの言葉はとても目からウロコでした。私は仕事だけではなく家事などの日常の業務でもどうしてもやる気が出ないと、いつも後回しにしてしまうなど、常に後ろ向きな気持ちでした。自分自身でその仕事に対してまずメタ認知し、自分自身で課題の意味付けや状況をコントロールできるのかどうか見通すこと、そしてコントロールができると思ったならば、課題を再設定し、自分が納得できる意味をその仕事に与えること。その両方をバランスよく持つことができたら、モチベーションが高まる、という循環になっていること、そのことがわかっただけでも、人生に対する考え方がプレイフルになったような気がします。

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