2020/10/01  カテゴリ 

よんでみた!

読んだ人がみな興奮「自分だけのものの見方や答えの出し方」が見つかる『13歳からのアート思考』

今回は「アート思考」についての本のご紹介です。不確実な現代にこそ必要な思考法として「アート思考」とはどのような思考法なのか、なぜ今大切なのかを具体的な例を元に書いています。13歳だけではなく、大人が読むべき1冊です。気になる「デザイン思考」と「アート思考」の違いも分かります。

最初の1ページで愕然とした「自称アート好き」な私

私は中学時代美術部に所属しており、今でも年に数回は美術館に足を運ぶ、
自分のことをどちらかというと美術やアートが好きな人間だと思っていました。
最初のページに登場するのはモネの「睡蓮」

最初のページに登場するのはモネの「睡蓮」

via wikiart
本書『13歳からのアート思考』の最初のページには、モネの睡蓮が描かれています。
自称美術好きの私は、「はい、モネの睡蓮ね、知っている」と絵の下に書いている解説文を斜め読みし、絵を情報として捉え、わかった気になっていました。
次のページをめくり書いていることを読むと……自分が絵を観ることすらしていなかったことに気づきショックを受けました。

著者の末永さんは、1枚の絵画を前にしてすら、自分なりの答えをつくれない人が
激動する複雑な現実世界で、何かを生み出したりできるでしょうか? と読者に問いかけます。

私は本書の最初の1ページを読んだだけで、日々の忙しさを理由に思考停止している自分、わかりやすさの方へ流れてしまっている自分に気づき、失ってしまった自分の興味の種や探究の根をもう一度掘り起こしてみたくなりました。

激動する今の時代に求められるアート思考

新型コロナウイルス感染症や、多発する自然災害など、私たちの生活は大きな変化を経験し、複雑化しています。このような時代には、これまで正解だったことを探していては到底対応ができません。今、自分なりの答えを作る力が求められています。

本書では、「自分だけのものの見方」で世界を見つめること、そして「自分なりの答え」を生み出す方法として「アート思考」が紹介されています。

アート思考は「植物」にたとえられており、アートという植物は、以下の3つの要素で構成されています。

・表現の「花」
・興味の「種」
・探究の「根」

地表部分に咲いている花、これはアートの作品そのもの。花の色や形は多種多様です。

花の根本には、自分自身の「興味」や「好奇心」「疑問」が詰まった興味の「種」があります。

この種から生える、探究の「根」は、種からの養分に身を委ね、長い時間をかけて地下世界を伸びていきます。アート活動を突き動かすのは、あくまでもこの「根」なのです。

アートというと、「表現の花」である作品にばかり焦点が当たりがちですが、
じつはアートという植物の大部分を占めるのは、地表に顔を出さない「探究の根」の部分です。

上手な絵や精巧な作品を生み出すことができても、「根」がなければ、「花」はすぐにしおれてしまいます。流行や他人からの批評などを気にせず、自分の内側にある興味をもとに、自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探究をし続けること。
「アート思考」とは、こうした思考プロセスであり、正解を見つけるのではなく、「自分だけの視点」で物事を見て、「自分なりの答え」を作り出すための方法です。

これはアートの世界だけに限られたことだけではありません。アート思考は、自分のものの見方、自分なりの答えを手に入れるための考え方。仕事や学び、生き方全般にもあてはまります。

アート思考とデザイン思考の違いとは?

みんデザでは、これまでずっとデザイン思考について取り上げてきました。
「アート」と「デザイン」は、同じような意味で捉えられちですが、実際には異なります。

「デザイン思考」は、顧客の持つ課題の解決を目指す考え方であり、商品やサービスを、使いやすく、顧客を中心に置いた最適な形に落とし込んでいきます。

「アート思考」は、アーティスト独自の価値観の表現を基にした考え方で、自分起点、自分軸の考えかたを重視しています。多様な考え方をもとに新たな価値を生み出すことです。

デザイン思考は顧客が満足することが達成基準となりますが、アート思考の場合は、自分自身が満足することが達成基準となります。
互いに相反するように見えますが、どちらも今の時代に必要とされる思考法です。

著者が考える13歳の分岐点とは?

タイトルに「13歳から」とあるように、本書は中学生でも理解できるとてもわかりやすい内容ですが、なぜ「13歳」なのでしょうか?

著者の末永さんは、武蔵野美術大学造形学部を卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)を修了し、個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学・高校の美術教師として教壇に立っています。

末永さんは、小学校から中学校に進級すると、これまで好きな科目だった「図工」が、「美術」になった途端、苦手な科目になってしまう、というアンケート結果から、
その原因は、分岐点である「13歳」にあるのではと仮説を立て、理由を探りました。

美術が好きではなかった人たちに理由を聞くと、自分の技術が高いのか低いのか、評価の基準や点数の付け方がわからない、将来の役に立たない、など、「わかりづらさ」が理由にあるようです。

末永さんは、絵を描く、ものをつくる、アート作品の知識を得る、こうした授業スタイルは、一見創造性を育むように見えますが、実はかえって個人の創造性を奪うのではないか、そして、私たちが美術で学ぶべきことは、「作品のつくり方」ではなく、むしろ、その根本にある「アート的なものの考え方=アート思考」ではないか、と言っています。

末永さんの授業では、作品づくりのための技術指導や美術史上の用語を暗記させるのは、ごくわずかで、生徒たちに「自分なりのものの見方・考え方」を手に入れてもらうことに力を置いています。
また、「アート思考」は、今の時代、子どもだけではなく、大人こそ最優先で学ぶ必要があるといいます。

6つの超有名アート作品を通じて、アートが格闘してきた歴史を知る

カンディンスキーを見て何を思う?何を感じる?

カンディンスキーを見て何を思う?何を感じる?

via wikiart
本書の構成は、有名な6つの「20世紀アート作品」を取り上げ、作品ごとに課題を設け、体験しながら読み進めるものとなっています。あたかも実際に講義を受ける感じで、「アート思考」のプロセスを体験できます。

偉大なる6人のアーティストの作品が、どのように固定概念を覆してきたのか、アートにしかできないことを模索し、格闘してきた歴史を知ることで、それぞれのアーティストが持つ興味の種と探究の根に触れることができます。

その6人とは、マティス、ピカソ、カンディンスキー、デュシャン、ポロック、ウォーホールです。
どのような作品が紹介されているか、それぞれの作品が語るアート思考が何か、は本書を実際に読んでお楽しみください。

作品を見て気がついたことや感じたことをアウトプットする「アウトプット鑑賞」や、作者の意図とは関係ないところで何かを感じとる「作品とのやりとり」など、様々な鑑賞方法が紹介されています。読み進めるうちに、ものの見方を変え、自分なりの答えを作り出すためのアート思考が育まれていきます。

名前や作品を見たり聞いたりしたことはあるけれど、この人達ってなにがすごいの? と思っている方は、ぜひ課題に挑戦しながら読み進めてみましょう。


私を含めて、読んだ人が皆、口を揃えて「こんな授業を中学生の頃受けてみたかった」「ものの見方が変わって、今すぐ美術館に行きたくなった」と言う本書。ぜひすぐに読んでみてください。
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