2020/07/10  カテゴリ 

きいてみた!

楽しみながら改良を続ける! デザイン思考な日本のモノづくりを取材してきました!

デザイン思考な企業を取材しお届けするシリーズ企画。今回は、ピンチをチャンスに変えた日本のモノづくり現場をご紹介します!株式会社新上さんにインタビューをしました。

――曽我部社長が大切にしている考え方を、お聞かせください。

曽我部社長:とにかく「楽しんでやる」ことですね。現場の人間には「今あるものごとを当たり前とは思わずに、斜めから見たり、ぶっ壊したりしてごらん」と話しています。既成概念を取り払うのは、自分でも難しいことです。

――その思考の原点はどこから来ているのでしょう?

曽我部社長:私自身、「使いづらいものをそのまま使う」ことに我慢ができないたちなんです。だから、財布でもなんでも、切り離しちゃったり、ポケットとったり、そういうのは日常的に、買ってすぐやっちゃいます。

光さん:その手帳も、社長が自分で改良したものですよね。いつもこんなことをしては、うまくできたって喜んでます(笑)

――デザイン思考でいう、「人間中心設計」の原点ですね!
曽我部社長のカスタマイズ手帳。どおりで使いやすそうな手...

曽我部社長のカスタマイズ手帳。どおりで使いやすそうな手帳だなと思ってました!

――そういえば、ギター関連のオリジナル商品(※)も展開されていますね。
(※アコースティック・ブルースギターの第一人者、打田十紀夫氏監修)

曽我部社長:40歳になって、我流のギターに限界を感じてブルースギタリストの打田先生に入門したんです。すると、自分だけでなく、みんながギターピックに不満を持っていることがわかったんです。とにかく硬いし、サイズもひとつしかなく、一時間も弾くと涙が出るくらい痛いんですよ。
師匠の打田先生も「本当に気に入らないけれど、世の中にこれしかないから我慢して使ってる」と仰るので、それなら自分が作ると開発を始めました。
(株)新上のオリジナルサムピック「TAB Specia...

(株)新上のオリジナルサムピック「TAB Special」を試しづけさせていただきました!

――すごい数の試作品ですね。先生にも使っていただいて、プロトタイプのテストを繰り返したのでしょうか?

曽我部社長:もちろんです。なかなか師匠のOKが出ず、スケッチを描き、パターンを作っては実験を繰り返し……完成まで1年以上かかりました。

――特許も取得されていますね。どの辺りがポイントですか?

曽我部社長:スリットを入れることで「固定」と「解放」を同時にできる点です。考えるのは、すごく簡単なことですよ。ただ、実際に作るには、金型のことも成形のことも熟知していないとできません。

――このピックの制作プロセスこそ、デザイン思考そのものと感じます。「痛い」というギターピックの問題点を、手を動かして作りながら、改善したという。

曽我部社長:このギターも……実は改良して切っています。長期出張で中国に行くので、ホテルで弾きたいんですが、スーツケースに入らない。ならば「切っちゃえ」とカスタマイズしました。

↓こちら、切られたマーチンと曽我部社長
「これくらい切った」と説明してくださる様子。どうりでち...

「これくらい切った」と説明してくださる様子。どうりでちょっと変わったギターだなと……

――「入らないから切っちゃおう」という発想がすごいです。普通、まさか切ろうとは思わないですよね。音は変わらないですか?

曽我部社長:やっぱり使いづらいものをそのまま使う、というのが我慢できないんですよ。音はとても小さくなりましたが、ホテル仕様なので丁度いいですよ(ポロリン〜 ギターの音)。
極端に言うと,大した音がなくてもいいと思ってるんです。スーツケースに入って、長期のホテル滞在中に指の練習ができればいい。

――そんな社長の姿を見て、社員の皆さんはどんな反応をするのでしょうか。 

曽我部社長:「社長、なにをやってんだ」って、笑っています(笑)

光さん:(笑ってますが)でも、社長の姿勢から影響を受けていますね。たとえば、製品制作でうまくいかないときに、どうするかをいろいろと考えて、専門外のパーツを全部自分たちで一から作ってみるとか、しています。

曽我部社長:実際は、そんなに簡単には作れないんですよ。素人ですから。でも、だんだんと自作できるようになるんです。

――「こうしたら直せるんじゃないか」という視点からの行動ですね。

曽我部社長:だからいいなと思っています。社員には、「面白がってそうしたことに取り組むことで、結果的に効率や出回りがよくなったり、いいことがたくさんあったりするから、見たものをそのままではなく、“何かできるのでは”と常に考えて」と話しています。

ピンチはチャンス! 移転で保育所を新設、経営にも遊び心と思い切りを生かす

――会社に企業内保育所を併設されています。どのようなきっかけで始められたのか、教えてください。

曽我部社長:きっかけは、工場前の道路拡張によって移転を与儀なくされたことです。この辺りは大きな工場や商業施設もあり、待遇や職場環境では勝てません。目を使う作業も多いので高齢化の課題もあり、若い人たちを集めるにはどうしたらいいかと考えました。

――保育園を併設したことで、変化はありましたか?

光:驚くほど変わりました。求人への応募が増え、社員の平均年齢も大きく若返りました。以前は下は40代から上は80代でしたが、今は20代なかばから、30代前半の方がメインです。うち、半数がお子さんを保育所に預けています。
ホームページには、スタッフのお子さんも一緒に写った写真も

ホームページには、スタッフのお子さんも一緒に写った写真も

――結果として、大成功ですね。しかし、かなりの大きな決断だったのではないでしょうか。

曽我部社長:「どうせ移転するならまた別のことをやりたい」という思いもありました。決断に至るまでにはいろいろな事が重なっています。応募が来るか来ないかは実施する前にはわからないので、正直祈るような気持ちでした。でも、たまたま、私には子供が4人いて、そのうち3人が幼稚園の先生をしていたんです。それなら思い切ってやってみようと。

――社内に反対意見はなかったのでしょうか?

曽我部社長:誰も反対しなかったですね。みんな喜んでました。娘も「うちで保育園やるんだったら」と勤めていた園を辞めて来てくれました。

光さん:「社長が言うならやってみよう」という感じでしたね。
併設保育所スタッフの皆さん。写真左に写る施設長は次男の...

併設保育所スタッフの皆さん。写真左に写る施設長は次男の亮さん(株式会社新上ホームページより)

曽我部社長:正直、あのまま経営していても、お先真っ暗だなという思いもあったんです。移転についても当初は嫌でしかたなく、どうしたらいいんだろうとずっと考えてました。工場を引っ越すって、大変ですから。

――思い切ってチャレンジしたからこそ、ピンチをチャンスに変えられたんですね。
では最後に、会社のビジョンとして曽我部社長が一番大切にしていること、今後新たに取り組んでいきたいことを、それぞれ教えてください。

曽我部社長:やはりものづくりですから、面白いもの、いいものをつくりたい、というのが根底にはあります。そして、そのものづくりをみんなで楽しめることが一番大事だと思います。

新しい事業のために、実は、ひと部屋あけてあるんです。そこで何かやりたいと思っています。その「何か」は、まだ検討中ですが「ものづくりだけれど、なにか違うもの」ができたらと考えています。
せっかく保育園もやっていますので、いずれ育児をサポートするものも商品化したいね、とも話しています。

我々は作ることはできるので、新しく作るものを探し続けることです。その中から世の中に必要とされるもの、本当に商品化できるものを生み出していく。そして、お客様と一緒により良いものをつくっていく。そこはやはり、変わらずにやっていきたいと思います。
【編集後記】
社名が自分の名字と同じ、そんな偶然(!?)から始まった取材でしたが、新上さんは、すべてがデザイン思考の会社でした。取材していて、一番心に残ったのは、会社の空気。和やかな社員さんが多く、ふんわりとした感じがしながらも、工場エリアでは皆集中して作業をしている。こういった場だからこそ、共創によるモノづくりができるんだな、と思いました。
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