2019/11/26 カテゴリ
きいてみた!
西口敏宏・一橋大学名誉教授に学ぶ ①奇跡を起こすチームのつくり方
2ヶ月半かかると言われた、震災からのインフラ復旧をたった10日で終わらせた奇跡のチーム。鍵は「やってみせる」「見える化」「称賛しあう」。一橋大学名誉教授の西口敏宏先生に教えていただきました。
目次
こんにちは、みんデザ編集部です。
「ゆるく楽しく繋がり学ぶ。大人のアクティブ・ラーニング「実践コミュニティ」を作ってみよう!」という記事、覚えていますか?
おさらいをすると、経営危機を迎えた自動車メーカー・クライスラーを救ったのは、部署間を横断する非公式な横のつながり。新しい発見を共有したり、助け合ったりして、危機を抜け出した、というお話でした。
この記事を編集しているとき、編集部メンバーの一人にピンとひらめきが。
「そういえば、コミュニティや組織づくりといえばこの人、という方を知っている! ぜひ取材させていただこう!」
とさっそく、メールを書いたのでした。
「ゆるく楽しく繋がり学ぶ。大人のアクティブ・ラーニング「実践コミュニティ」を作ってみよう!」という記事、覚えていますか?
おさらいをすると、経営危機を迎えた自動車メーカー・クライスラーを救ったのは、部署間を横断する非公式な横のつながり。新しい発見を共有したり、助け合ったりして、危機を抜け出した、というお話でした。
この記事を編集しているとき、編集部メンバーの一人にピンとひらめきが。
「そういえば、コミュニティや組織づくりといえばこの人、という方を知っている! ぜひ取材させていただこう!」
とさっそく、メールを書いたのでした。
クライスラー復興の現場に立ち会った、歴史の証人が登場
その方とは……一橋大学名誉教授の西口先生。突然の取材依頼にも関わらずご快諾いただきました!
西口 敏宏(にしぐち としひろ)
一橋大学イノベーション研究センター教授を経て、一橋大学名誉教授、武蔵大学客員教授。専門は組織間関係論、ネットワーク論。趣味はロック、クラシック音楽。
主要著作に『コミュニティー・キャピタル論』(共著、光文社新書、2017年)
『コミュニティー・キャピタル』(共著、有斐閣、2016年)
『遠距離交際と近所づきあい』(NTT出版、2007年)など。
西口先生は、組織間関係論や、社会ネットワーク論の第一人者としてご活躍されています。む、難しそうだけど、みんなにわかりやすく、みんデザらしくインタビューしたいと思います。
みんデザ編集部(以下、みんデザ):西口先生、今日は宜しくお願いします。先生はクライスラーの非公式コミュニティとご縁があるそうですね?
西口敏宏先生(以下、西口):80年代から90年にかけて、苦境にあえぐクライスラー社の再興に、私の著書『戦略的アウトソーシングの進化』(東大出版会、2000年)のノウハウを活用いただいたんです。
何度も現場を訪問し、社長や幹部のみなさんとディスカッションを重ねました。みんデザの記事を読み、懐かしく、嬉しく思いました。今日は宜しくお願いします。
西口敏宏先生(以下、西口):80年代から90年にかけて、苦境にあえぐクライスラー社の再興に、私の著書『戦略的アウトソーシングの進化』(東大出版会、2000年)のノウハウを活用いただいたんです。
何度も現場を訪問し、社長や幹部のみなさんとディスカッションを重ねました。みんデザの記事を読み、懐かしく、嬉しく思いました。今日は宜しくお願いします。
東日本大震災、そのとき日本の自動車業界沈没の危機が訪れていた!
みんデザ:今日は、先生の研究内容についていくつかお聞きしたいと思います。
西口:まず、2011年の東日本大震災のときに被災した大手半導体メーカー・ルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)の復旧のケースをお話しましょう。みなさんにきっと役立つと思います。
(※このエピソードについてですが、来年2月予定のみんデザ主催のイベントにて、西口先生にあらためて詳細をお話いただきます。また、西口他の『コミュニティー・キャピタル論』(光文社新書、2017年の第7章)にも詳しく載っています。お楽しみに!)
ルネサスは車にとって頭脳と言える、車載用のマイコン(エンジンの制御やドアの開閉、エアコンなどを動かす電子部品)を生産しているメーカーで、国内で90%を超えるシェアを持っています。つまり国産車生産のほとんどを担っていると言ってもいいですよね。
東日本大震災のとき、そのルネサスのメイン工場である、茨城県ひたちなか市の那珂(なか)工場が壊滅的な打撃を受けてしまったんです。
西口:まず、2011年の東日本大震災のときに被災した大手半導体メーカー・ルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)の復旧のケースをお話しましょう。みなさんにきっと役立つと思います。
(※このエピソードについてですが、来年2月予定のみんデザ主催のイベントにて、西口先生にあらためて詳細をお話いただきます。また、西口他の『コミュニティー・キャピタル論』(光文社新書、2017年の第7章)にも詳しく載っています。お楽しみに!)
ルネサスは車にとって頭脳と言える、車載用のマイコン(エンジンの制御やドアの開閉、エアコンなどを動かす電子部品)を生産しているメーカーで、国内で90%を超えるシェアを持っています。つまり国産車生産のほとんどを担っていると言ってもいいですよね。
東日本大震災のとき、そのルネサスのメイン工場である、茨城県ひたちなか市の那珂(なか)工場が壊滅的な打撃を受けてしまったんです。
西口:被災した工場は凄惨のひとこと。
破れた天井越しには、ぐちゃぐちゃになったクリーンルーム(半導体を作るための清浄な部屋)が見え、薬品を送るポンプ150台は腐食して使い物にならない。
数億円以上する機械が何台も壊れて横たわり、天井からはワイヤーが切れてぶら下がっている……
ここが稼働しないと、なんと1日あたり1000億円の損害が出るとされ、まさしく日本の自動車業界存亡の危機!
みんデザ:本当にひどい状態ですね……。再稼働を考えると気が遠くなりそうです。
破れた天井越しには、ぐちゃぐちゃになったクリーンルーム(半導体を作るための清浄な部屋)が見え、薬品を送るポンプ150台は腐食して使い物にならない。
数億円以上する機械が何台も壊れて横たわり、天井からはワイヤーが切れてぶら下がっている……
ここが稼働しないと、なんと1日あたり1000億円の損害が出るとされ、まさしく日本の自動車業界存亡の危機!
みんデザ:本当にひどい状態ですね……。再稼働を考えると気が遠くなりそうです。
西口:はじめは復旧だけで2ヶ月半、再開に半年、完全復興には1年以上かかるとの調査結果でした。
それを聞いた日本自動車工業会(自動車や部品メーカーの業界団体。以下、自工会)は「日本沈没の危機だ。そんなのんびりやっている余裕なんてない!」と、3月下旬にトヨタ・日産・ホンダなど自動車・部品メーカーからなる精鋭部隊を現場に派遣しました。
4月の頭には、阪神淡路大震災の復旧経験もある自工会のメンバーも現場に到着。
さらに各企業が続々と支援員を派遣し、ルネサスのメンバーも含めると5000人が一堂に会して作業にあたる、すさまじい状況です。
編集部:すごい人数、しかもいろいろな会社からの寄せ集め。うまく機能するとは思えないのですが……
西口:普通に考えるとありえない状況ですよね。でも、ここから奇跡のように復旧が進みます。
それを聞いた日本自動車工業会(自動車や部品メーカーの業界団体。以下、自工会)は「日本沈没の危機だ。そんなのんびりやっている余裕なんてない!」と、3月下旬にトヨタ・日産・ホンダなど自動車・部品メーカーからなる精鋭部隊を現場に派遣しました。
4月の頭には、阪神淡路大震災の復旧経験もある自工会のメンバーも現場に到着。
さらに各企業が続々と支援員を派遣し、ルネサスのメンバーも含めると5000人が一堂に会して作業にあたる、すさまじい状況です。
編集部:すごい人数、しかもいろいろな会社からの寄せ集め。うまく機能するとは思えないのですが……
西口:普通に考えるとありえない状況ですよね。でも、ここから奇跡のように復旧が進みます。
信頼を得るには、まず「やってみせる」こと
西口:半導体メーカーと自動車メーカーでは生産方法も文化も違うため、はじめはルネサス側と自工会の支援チームの間には深い溝がありました。
みんデザ:そんなチームが一枚岩となるきっかけは何だったのでしょう。
西口:爆発の危険があり、検査だけで1ヶ月かかると言われていた分電盤(漏電を防ぐブレーカー)の調査に、自工会チームの電気技師が10人で乗り込みました。
1日半をかけて帰ってきた10人に、皆が「……どうでした?」と聞くと、「もう修理も終わりました」と。
なんと、調査どころか修理まで終わらせてしまったんです!
報告を受けたルネサスのメンバーは、あっけにとられて、あたかもマジックを見ているかのよう。ぱらぱらと拍手が生まれて、一瞬の後、喝采に変わりました!
絶望感に包まれていた現場の空気が変わった瞬間でした。
みんデザ:1ヶ月が1日半って……本当にマジックのようですね。
西口:実は自工会チームの、トヨタやデンソーのメンバー内では過去の災害復旧の経験から、
「分電盤は水害(浸水)には弱いが、地震では影響は受けないだろう」と確証があったので実行できたんです。
「えいや!」で乗り込んだのではなく、根拠があったうえで、正しい判断をしたのです。
この出来事をきっかけにルネサス側も、「半導体メーカーとは違うけれど、この人たちのやることは間違いない」と一気に信頼関係が生まれ始めたのです。
みんデザ:そんなチームが一枚岩となるきっかけは何だったのでしょう。
西口:爆発の危険があり、検査だけで1ヶ月かかると言われていた分電盤(漏電を防ぐブレーカー)の調査に、自工会チームの電気技師が10人で乗り込みました。
1日半をかけて帰ってきた10人に、皆が「……どうでした?」と聞くと、「もう修理も終わりました」と。
なんと、調査どころか修理まで終わらせてしまったんです!
報告を受けたルネサスのメンバーは、あっけにとられて、あたかもマジックを見ているかのよう。ぱらぱらと拍手が生まれて、一瞬の後、喝采に変わりました!
絶望感に包まれていた現場の空気が変わった瞬間でした。
みんデザ:1ヶ月が1日半って……本当にマジックのようですね。
西口:実は自工会チームの、トヨタやデンソーのメンバー内では過去の災害復旧の経験から、
「分電盤は水害(浸水)には弱いが、地震では影響は受けないだろう」と確証があったので実行できたんです。
「えいや!」で乗り込んだのではなく、根拠があったうえで、正しい判断をしたのです。
この出来事をきっかけにルネサス側も、「半導体メーカーとは違うけれど、この人たちのやることは間違いない」と一気に信頼関係が生まれ始めたのです。
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