2019/11/26  カテゴリ 

きいてみた!

西口敏宏・一橋大学名誉教授に学ぶ ①奇跡を起こすチームのつくり方

2ヶ月半かかると言われた、震災からのインフラ復旧をたった10日で終わらせた奇跡のチーム。鍵は「やってみせる」「見える化」「称賛しあう」。一橋大学名誉教授の西口敏宏先生に教えていただきました。

情報共有のために作ったのは、なんと壁新聞!

みんデザ:電気が不安定、水やインフラもない状況、大量の作業員がいて情報共有もままならないと思いますが、どのように状況を共有したのでしょうか?

西口:現場のメンバーがまず実施したのは「壁新聞」の作成です。

みんデザ:壁新聞……小学校の教室の壁に貼ってあるあれですか?

西口:まさにその壁新聞です。椅子やテーブルを取り払って、24時間いつでもたくさんの人が入れるようにした大部屋の壁一面に壁新聞を貼ったんです。
使ったのは紙とマジックとピンとひも。紙にひもをピンで止めて、作業が終わるまでの期間をひもの長さで見える化しました。

ぐるっと部屋をひと回りすると、作業員でも幹部でも、誰もがすべての状況が分かる状態。
計画が変更になったら、ペンで書き直して履歴を残しておきました。変わった過程を残しておいて、ボトルネック(真の原因)を分かるようにするのが大事でした。

自工会チームを構成するトヨタのメンバー内では、情報共有とボトルネックの大事さは日常業務でしみついている。だからこそ、このような極限的な状況でも、紙とペンとヒモを使って紙新聞を作ろう、と。

壁新聞を見ながら「こっちが早く終わっても、もう一方が15日もかかっている。どうしたら短くできる?」
そんな議論を、毎日朝夕30分きっかり、決められた時間内で行いました。

大人も子どもも、褒められるとやる気が出る!

みんデザ:やってみせること、情報共有すること。プロジェクトではとても大事ですね。
でも、この極限状況のなかで、メンバーはどうやってモチベーションを維持してきたのでしょうか?
たくさん専門書がある書棚から一冊の本を取り出して……

たくさん専門書がある書棚から一冊の本を取り出して……

西口:従業員にモチベーションを高くして働いてもらうには、どういった仕組みがいいか。「ホーソン実験」をご紹介しますね。

これは1920〜30年代にかけてシカゴのウエスタン・エレクトリック社で行われた、「環境によって従業員の作業効率は変わるのか?」という実験です。

さまざまな環境で従業員の作業効率を観察した結果、職場の人間関係が重要なのがわかりました。でも、面白かったのは、研究者たちが来ているときに成績が上がるという(笑)。つまり、張り合いを感じるときに成果が出るんです。

みんデザ:壁新聞もそうでしたが、なんだか子どもの頃と同じですね(笑)

西口:自分たちが重要な存在であると認識できるとき、つまり専門家からインタビューを受けたり、自分の成果を記録したりしてもらうとき、人はモチベーションが上がります。

とくにトヨタでは、この仕組みを早期から取り入れていました。
たとえば、壁新聞のような形でプロジェクトを見える化して、外部の人も含めて全員に成果が分かるようにする。工程を改善した人に表彰状を与えるなど……。

すごい集団のなかで認められたい。自分が考えたものがみんなに貢献する。その誇りがモチベーション向上につながる。

ルネサス復旧でも、誰かの頑張りで工程が短縮されると、皆から拍手喝采を浴びました。また、功績のあった企業に感謝状を贈る仕組みもありました。
そうすると「自分たちも負けないように頑張ろう」と、会社の垣根関係なくメンバーのモチベーションが高まったのです!

危機的状況だからこそ、ささやかな達成感を味わい、喜びを皆で分かち合うこと。それが協働作業を実施するのに大事なことですね。

極限状況で生かされた、組織としての学び力と高い危機意識

みんデザ:自工会グループのなかでも、トヨタメンバーの話がいくつか出てきました。なぜトヨタグループではノウハウを蓄積でき、臨機応変に対応できるのでしょうか?

西口:まず、組織としての学習力が高いんですね。プロジェクトで何が問題だったか、ネックとなったか、対策をすべて文書にして次世代に引き継いでいます。

たとえば、東日本大震災から5年後の2016年、熊本地震が起こりました。
全く別のスタッフが稼働しましたが、このルネサスのケースの引き継ぎがしっかりされていました。トヨタは一回目の前震(※2016年4月14日、M6.3、震度7)直後に、現場に探検隊のような出で立ちの部隊をすぐに派遣できたのです。

もう一つは、危機意識。極端ともいえるくらいの危機意識が平時から会社全体にあります。

危機意識を持てる理由は、製造ラインでたった数日分しか在庫を持たないという、「ジャストインタイム」。在庫のプラスマイナスが許容されない、厳しい状況を日々経験しています。

トヨタの工場では、何か異変が起きるとラインをすぐに止め、ラインの班長さんは異変の原因を見つけるため、5回「なぜ」を問う。原因を探し、次にその原因のもととなった原因を探す……、これを5回繰り返します。
トヨタが生み出したこの方式は「なぜなぜ分析」と呼ばれ、あらゆる場面で徹底されている。

ルネサスの復旧でも「なぜなぜ」の姿勢が生かされたのです。

ズタズタになったインフラは10日間で復活した!

みんデザ:さて、最終的に再稼働はどのように実現できたのでしょうか?
身振り手振りをまじえ、奇跡の復旧の様子を熱く語る西口先生

身振り手振りをまじえ、奇跡の復旧の様子を熱く語る西口先生

西口:クリーンルームの復旧、天井ごと落ちてきたケーブルの処理、150本の腐ったケミカルポンプの代替品の調達、ズタズタになったエアダクトの修理……こういったインフラの復旧には2ヶ月半はかかると思われていました。

しかし、メンバーの知恵と行動力、チームワークによって、なんとわずか10日間あまりで完了したのです!

クリーンルームを10日あまりで使えるようにする、のは、さすがに信じがたかったのですが(笑)、本当に実現できてしまった。

このような奇跡を続けて目の当たりにして、胸がときめかない人はいませんよね。

お互いの信頼を育んだルネサスと自工会チームの協力によって、震災から2ヶ月半後、2011年6月1日に生産ラインを再開できました。
いきなり、すごいエピソードをお聞きし、開いた口がふさがらないみんデザ編集部。
「やってみせる」「見える化」「称賛しあう」、この3つチーム力を高めるのに大事なんですね。

西口先生のお話はまだまだ続きます。さらに学びを深めるみんデザ編集部のメンバー。後編をお楽しみに!
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